2026/05/21 19:38
スキップするババアたち
最近、ババアたちがスキップしている。
それは30代に突入したわたしにとって、大変心軽やかになる希望だ。
これまで、女性の物語といえば、恋愛や結婚を中心とした10代や20代の若い女性がメインを占めていた。例えば90年代を代表する、わたしの大好きな漫画家、岡崎京子の作品で描かれるのも、10代から20代の少女たちだ。ディズニー映画を取っても、依然として少女であるプリンセスが王子に見染められるという物語。
これまで女性を描くストーリーは、限りある若さの刹那や誰かに選ばれることでゴールする恋愛に重きを置いていた。
しかし近年見かけるようになったのは、新しい世代の女性像だ。
2021年に放送されたテレビドラマ『大豆田とわこと3人の元夫』では、松たか子演じる主人公大豆田とわこは、三度の離婚を経験した一児の母でもあり、働く女性でもある、40代女性として描かれる。
大豆田とわこは、この作品の中で、おもしろおかしい図太くなったオバさんとしても表現されていないし、度重なる離婚を経験した母という悲劇の存在にもされていない。普通に仕事に悩み、生活し、友人とワインを飲み、時たま恋愛をする、圧倒的普通の女性だ。
これまで女性は、男性に選ばれるための若い存在か、それ以外の若くはなくなった女性は、図太く見た目に気を使わない喜劇の存在若しくは選ばれなかった悲劇の存在として表現されてきた。
その女性へのロールに新たな風が吹いている。
2020年にスタートしたPodcast番組、『OVER THE SUN』はジェーン・スーさんと堀井美香さんに
よる対談形式の番組で、共にアラフィフ世代。同年代のリアルなトークを繰り広げる同番組は「JAPAN PODCAST AWADS」においてベストパーソナリティ賞とリスナーズチョイスのW受賞をするほどの人気で、今や10代〜70代と幅広い世代から熱狂的な支持を受けている。
また同じく50代の、お笑い芸人として長年日本のテレビ業界で活躍してきた光浦靖子さんは、現在カナダのバンクーバーに留学し、料理学校に通う学生だ。また現地で、自身の得意とする手芸のワークショップを定期開催するなどその活動は、彼女の経歴からは想像が難しいような新しい活動と多岐に渡る。
そんな軽やかな中年女性たちの存在が、実は女性たちの憧れになってきているのではないか。例えば、つい最近「平成一桁ガチババア」というネットミームが流行した。平成一桁世代というのは、今現在30代、ガチババアというには些か早すぎる気もする絶妙な年代だ。だが、社会においてもう若くないとされ、家庭でも社会でも責任を多く持たされ、既存の少女たちの物語から外れてしまった我々30代にとって、それは自虐というよりも、自分の人生を自分で選び生きる新しい解釈としての「ババア」の存在に羨望の眼差しがあるように感じてならない。
実際、スキップするババアたちは案外身近に存在している。わたしの母は50代で突然、ベーグル屋になると宣言し、工房を借りてせっせとベーグルを焼き始めた。友人の母は、同じく50代、園芸にどハマりして、最近コンテストに出展したらしい。友人同士で、スピリチュアル情報を交換し、スピ骨院(スピリチュアル接骨院)に行ってみたり、風水のワークショップで高額な鏡を買わされそうになったと笑ったりしている。
彼女たちは、決して人生を解決しているわけでも、大成功を収めているわけでもない。親世代の介護に翻弄されたり、夫の不満を言ったり、体は衰えるし、金銭的に何不自由ない暮らしをしているわけでもない。
それでも、そのリアルな生活は若さを失った悲劇でも、面倒な世話焼きおばさんという喜劇でもないのだ。
ただただ、彼女たちは、時折、小学校の帰り道で空き地の草花を摘むときのように、スキップしている。
そんな姿は、女の人生は若さで終わらないと教えてくれる。
女の人生は若さの後もきっと、まだまだは味わい深いのだ。20代は、右も左も分からずに社会に翻弄され、若さや恋愛に翻弄される。30代40代は、そんな嵐の中で培った知識や経験を編纂し、子育てに尽くしたり、社会の責任を負う働き盛りで、自分以外に尽くす時間が圧倒的に増える。そして50代、ふと自分のもとに戻ってくるのではないだろうか?だからスキップし始められる。まだわたしには、わからないけれど、おそらく乗り越えてきた人生に裏打ちされた経験、生活への熟練、社会で生きていく強さが備わった彼女たちは、実は圧倒的に自由なのではないか。
そんなコンテンツやロールモデル、物語作品が、どんどん世の中に出てくることが嬉しい。わたしはリアルに、悩みながら、大成功を収めずとも、それでも楽しそうに生きていく大人たちの話を聞くと安心する。
それはきっと、これからの女の子たちへの希望になるはずだ。若さに固執しなくても、その先にまだまだ楽しそうに生きる女たちがいること。それはわたしたちを老いの恐怖から解放し、自由にさせる。この潮流は、いわば女の「若さ至上主義」からの解放運動だ。
だからわたしは、憧れと希望を込めて、軽やかに生きる若くはない女性たちを、「スキップするババアたち」と呼びたい。

Writer : Hazuki SUEISHI
TEDDY MARKET
